「思い出なんかいらん」という言葉の解像度を極限まで高めているのが、稲荷崎高校の主将・北信介と、天才セッター宮侑・宮治の存在です。
北信介は決して飛び抜けた身体能力や技術を持つ選手ではありません。しかし彼は、「毎日やっていることを毎日やるだけ」「体調管理、掃除、練習、挨拶、すべてを丁寧に反復する」という、徹底したプロセスの信奉者です。彼にとって結果や過去の記憶は後からついてくる副産物に過ぎず、重要なのは「今日、目の前の行動を正しく積み上げたか」という事実だけです。この北の生き様こそが、スローガンに地に足のついた説得力を与えています。
一方で、コート上で暴れ回る宮侑は「昨日の自分より、今の自分が美味いトスを上げられるか」だけに飢えているバレーボールの申し子です。どんなに華々しいスーパープレイを決めても、1秒後にはそれを過去のものとして捨て去り、次の新しい攻撃を仕掛けます。北の「積み重ねる日常」と宮兄弟の「前進し続ける飢餓感」――この2つのベクトルが合流する地点に、「思い出なんかいらん」というスローガンが強烈に機能しています。