なぜ同じ「おじ」という大和言葉に、ふたつの異なる漢字が割り当てられたのか。背景には古代中国の親族呼称「伯・仲・叔・季(はく・ちゅう・しゅく・き)」の序列システムがある。長男を伯、次男を仲、三男を叔、末子を季と呼んだ厳格な兄弟序列の体系が、律令期以降の日本に導入された名残である。言語学者の金田一京助が日本の民俗儀礼や言語変遷のなかで解き明かしてきたように、外来の整然たる文字体系と、日本古来の血縁包括概念が習合した結果、音声では「おじ」と一括りにしながら文字では厳密に書き分けるという二重構造が定着した。
日常会話のレベルでは融通を利かせつつ、公式文書では厳密さを尊ぶ。日本人が育んできたこの言語感覚は、単なる知識の多寡ではなく、親族ネットワークに対する繊細な気配りの表れとして機能してきたのである。