言葉の本来の姿を理解するために、まずは原詩の構造から整理していきます。「春眠暁を覚えず」の読み方は「しゅんみん あかつきを おぼえず」であり、中国・盛唐の詩人である孟浩然(もうこうねん)が詠んだ五言絶句『春暁(しゅんぎょう)』の冒頭第1句です。日本では漢文教育の導入として親しまれ、古今東西の漢詩の中でも屈指の知名度を誇ります。
原詩の全文、訓読、および現代語訳は以下の通りです。
【原文(白文)】
春眠不覺曉
處處聞啼鳥
夜來風雨聲
花落知多少
【書き下し文】
春眠(しゅんみん) 暁(あかつき)を覚(おぼ)えず
処処(しょしょ) 啼鳥(ていちょう)を聞く
夜来(やらい) 風雨(ふうう)の声
花落(お)つること 知(し)る多少(たしょう)
【春眠暁を覚えずの現代語訳】
春の眠りはあまりにも心地よく、夜が明けたことにも気づかずに眠り込んでいた。
ふとまどろみから覚めると、あちらこちらから小鳥のさえずりが聞こえてくる。
そういえば、昨夜は激しい風雨の音がしていた。
庭の咲き誇っていた花は、いったいどれほど散ってしまったのだろうか。
英語圏においてもこの詩情は高く評価されており、代表的な意訳として「In spring, one sleeps a sleep that knows no dawn」という表現が広く知られています。春の眠りが夜明けを忘れさせるほど深く甘美であるというニュアンスを巧みに伝えています。
ここで着目すべきは、「春眠暁を覚えずの続き」となる後半2句です。詩の焦点は、単なる寝心地の良さ(第1句・第2句)から、昨夜の嵐と散りゆく花への哀憐(第3句・第4句)へと劇的に移行します。「暁(夜明け)」に気づかないほどの深い眠りから覚めた瞬間、外の鳥の声に耳を澄ませ、昨夜吹き荒れた風雨によって無惨に散ったであろう春の花々を思いやる――。ここには、春の生命力への賛美と、美しい季節の移ろいに対する切なさが鮮やかに対比されています。