インターネット上の掲示板やSNSでは、「通勤経路図に書いたルートから1メートルでも外れたら、万が一事故に遭っても労災は全額自腹になる」といった極端な噂が散見されます。しかし、労働法および過去の判例に照らし合わせると、これは法的な実態を正確に捉えていません。
労災保険法において定められているのは、「合理的な経路」からの「逸脱」および「中断」があった場合、原則としてその後の移動は通勤災害と認められないという原則です。たとえば、仕事帰りに繁華街で長時間飲酒したり、映画館に立ち寄ったりする行為は「逸脱・中断」に該当し、その間の事故はもちろん、再び通勤経路に戻った後の事故も補償対象外となります。
ただし、法には明確な例外規定が存在します。「日常生活上必要な行為であって厚生労働省令で定めるやむを得ない事由」を満たす場合、その行為を行うための最小限の逸脱・中断の間を除き、本来の通勤経路に戻った後の事故は再び通勤災害として認められます。具体的には以下の行為が該当します。
- 通勤途上での日用品・食料品の購入(コンビニやスーパーへの短時間の立ち寄り)
- 職業訓練や学校での受講
- 選挙権の行使(投票)
- 病院やクリニックでの診療・治療
- 要介護状態にある配偶者や親族の介護、および子どもの保育園等への送迎
すなわち、「夕飯の惣菜を買うために駅前のスーパーに10分立ち寄った」「帰宅途中に処方薬を受け取るために薬局に入った」程度の行動であれば、買い物を終えて通常の経路に復帰した後の移動は労災の適用対象となります。したがって、経路図を作成する際、コンビニに立ち寄るためだけの微細な寄り道ルートまで神経質にすべて図示する必要はありません。あくまで「基幹となる日常的な最短・安全ルート」を1本堂々と申告しておくことが、法的に最も賢明なアプローチです。