店名に冠された「ざいご」とは、讃岐の方言で「在郷(いなか・田舎)」を意味します。近代化されたファストフードスタイルのセルフうどん店とは対極に位置し、讃岐の農村で祝い事や集落の集まりの際に振る舞われていた「大桶の釜揚げうどん」の原風景を今に伝えるのがざいごうどん本家 わら家のアイデンティティです。店舗自体が徳島県祖谷山村から移築された本物の茅葺き屋根の古民家であり、庭園で響く水車の音とともに、訪れる者を一瞬で日常から切り離します。
わら家 うどんの代名詞が、大きな杉の木桶に張られた熱湯の中に麺が泳ぐ「わら家 たらいうどん」です。水で締める工程を挟まず、大釜から直接引き上げられる麺は、小麦の豊かな香りとデンプン質のふっくらとした弾力が極限まで引き出されています。表面には適度なぬめりがあり、これが濃厚な出汁を驚くほど絡め取ります。
そして、訪れた者が誰しも息を呑むのが「わら家 出汁 徳利」の圧倒的な存在感です。陶器製の特大徳利は直火で熱湯消毒を兼ねて極限まで熱せられており、素手で触れることは不可能な熱さを誇ります。首に巻かれた藁縄(わらなわ)をしっかりと握りしめて猪口(ちょこ)に注ぐ所作そのものが、この店ならではの儀礼的体験となっています。
この徳利の熱さには明確な味覚設計上の理由が存在します。水分を含んだ熱々の釜揚げうどんを次々と浸していくと、一般的なつけ出汁は数口で温度が下がり、水っぽくなってしまいます。しかし、沸騰寸前の温度に保たれた伊吹島産最高級イリコと利尻昆布の出汁を少しずつ注ぎ足すことで、最後の1本を啜り終える瞬間まで、立ち上る芳醇なアロマと力強い旨味の骨格が崩れません。