ネットやアニメ等で見かける「漆黒の堕天使」とは一体何なのか。厨二病フレーズとしての元ネタや意味を辿ると、宗教的古典と現代のデジタル俗語が入り混じる興味深い構造が浮かび上がってきます。
第一の源流は、言わずと知れたキリスト教の伝承に登場する堕天使ルシファー(サタン)です。もともとは「光をもたらす者」「明けの明星」を意味する最高位の熾天使(セラフィム)でありながら、自らの美しさと力に驕って神に反逆し、大天使ミカエル率いる天の軍勢に敗れて天界から奈落へと突き落とされました。17世紀の詩人ジョン・ミルトンが著した叙事詩『失楽園』や、ダンテの『神曲』地獄篇において、かつて純白に輝いていた翼が煤け、光を失って黒く変貌した描写は、後世の創作物に決定的な影響を与えています。
しかし、神話におけるルシファーは「堕落した天使」「悪魔の長」と呼ばれるのが通例であり、「漆黒の堕天使」という七五調に近いリズミカルな日本語フレーズそのものは、古典文学には存在しません。この言葉が現在のような形で結晶化したのは、1990年代後半から2000年代初頭の日本のインターネット黎明期でした。
当時、マリスミゼル(MALICE MIZER)をはじめとするヴィジュアル系バンドが提示したゴシック・ロリータ的世界観や、ライトノベルの草分け的作品群が「漆黒」「堕天」「深淵」「背徳」といった語彙を好んで用いました。それが2ちゃんねる(現5ちゃんねる)のオカルト板やニュース速報VIP板に流入。「自分には特別な魔力が眠っている」と妄想して振る舞う「邪気眼(じゃきがん)系コピペ」のテンプレ用語として定型化されたのが、言語学的・ネット文化的な真の由来です。神話の壮大なモチーフが、思春期の気恥ずかしい自意識の受け皿として再定義された瞬間でした。