二人の物語の原点は、1990年代半ば、六本木に誕生した巨大ディスコ「ヴェルファーレ」のVIPルームにありました。当時、サンミュージックに所属しながらも目立った活躍ができず、将来に迷っていた少女・浜崎あゆみ。そこに現れたのが、新興レコード会社エイベックスの専務として破竹の勢いを見せていた松浦勝人氏でした。
「この子の声には、人の胸を刺す響きがある」。そう直感した松浦氏は、彼女をエイベックスへと引き抜き、単身ニューヨークへのボーカルレッスン留学を決断させます。プロデューサーと見習いアーティストとしてスタートした関係は、異国の地とのファクスや長電話でのやり取りを通じて、急速に男女の情愛へと昇華していきました。
自伝小説『M 愛すべき人がいて』において、浜崎本人は次のように心情を綴っています。
「自分の身を滅ぼすほど、ひとりの男を愛した」
携帯電話の短縮ダイヤル「1」に松浦氏を登録し、彼の右肩に彫られたタトゥーと同じデザインを自らの左肩に刻み込んだエピソードは、彼女にとってこの恋が文字通り命懸けであった事実を物語っています。
当時のエイベックスは上場を控えた激動期にあり、松浦氏自身も私生活の整理を迫られていた背景がありました。世間の目を避けるように始まった約2年間の同棲生活。デビュー直前、誰にも知られてはならない秘密の恋こそが、のちに平成の歌姫となる少女の表現欲求を極限まで研ぎ澄ましていったのです。