刊行から数年が経ち、文庫版で一気読みした読者の間でも、本作に対する視線は依然として分かれています。なぜここまで評価が極端に二分されるのでしょうか。
【絶賛派の声:王道の村上ワールドの結晶】
- 『ねじまき鳥クロニクル』を彷彿とさせる井戸や穴潜り、歴史の暗部との対峙など、村上春樹のコアな魅力が凝縮されている。
- 文庫全4巻という長大なボリュームながら、免色渉のミステリアスな魅力と謎解き要素でページをめくる手が止まらない。
- 人生の半ばで喪失を経験した大人が、再び他者と結び直していく再生の物語として深く沁みる。
【否定派・「つまらない」と感じる理由】
- 「井戸」「妻の失踪」「謎の案内人」など過去の村上作品の記号が再生産されており、新しい驚きに乏しい。
- 前半で提示された多くの謎(免色渉の正体、鈴の音の科学的根拠、「顔のない男」の真意など)が論理的に回収されず、放置された感覚が残る。
- 思春期の少女に対する描写や性的なモチーフの扱いに違和感を覚える読者が少なくない。
論理的なミステリーや伏線回収のカタルシスを求める読者にとっては「消化不良」に映り、深層心理の旅やメタファーとしての詩的な連なりを楽しむ読者にとっては「圧倒的な没入感」をもたらす。この構造の差異こそが、賛否両論を生み出す最大の要因となっています。