水谷隼の輝かしい卓球経歴において、最大のターニングポイントとなったのが東京五輪での金メダル獲得と、それに続く現役引退の表明でした。伊藤美誠とペアを組んだ混合ダブルス決勝で中国ペアを劇的な逆転で破った瞬間は、日本スポーツ史に残る伝説として語り継がれています。
しかし、その栄光の裏には想像を絶する過酷な闘いがありました。2018年頃から水谷を苦しめたのが、会場のLED照明や電光掲示板の光が網膜に異常な残像を残し、球筋や距離感が完全に狂ってしまうという「目の異変」でした。
自著や当時の特番インタビューにおいて、水谷は「ボールがネットを越えた瞬間、光の中に消えて見えなくなる」「勘だけでラケットを出していた」と凄絶な告白を残しています。特殊なサングラスを着用してプレーを続けたものの、ミリ単位の回転や軌道を見極める世界最高峰のラリーにおいて、視覚のハンデは致命的でした。限界まで肉体と神経を削り、五輪の頂点に登り詰めた瞬間こそが、自ら定めた引き際だったのです。