多くのサイクリングファンが最も知りたがっている核心、それは「なぜポガチャルはここまで圧倒的だったのか」という勝因の真相です。2022年、2023年とヴィンゲゴー選手に連敗を喫していたスロベニアの怪童が、いかにしてライバルを完膚なきまでに叩きのめしたのか。その背景には、単なる個人のフィジカル強化にとどまらない、機材・栄養・チーム戦術の全方位に及ぶパラダイムシフトが存在していました。
第一の要因は、UAEチーム・エミレーツが構築した「史上最強の山岳トレイン」です。アダム・イェーツ選手、ジョアン・アルメイダ選手、フアン・アユソー選手、パヴェル・シヴァコフ選手といった、他チームであればエースを張れる総合トップ10クラスのクライマーを惜しみなくアシストに投入しました。チーム首脳陣の指示のもと、超級山岳の麓からハイペースを刻み続けることで、ライバルチームのアシストを早期に孤立させ、ポガチャル選手がアタックを打つための完璧なお膳立てを整えたのです。
第二に、スポーツ科学に基づく登坂出力(パワーウェイトレシオ)の異次元化が挙げられます。象徴的だったのが第15ステージ、過酷な超級山岳プラトー・ド・ベイユ(登坂距離15.8km、平均勾配7.9%)での走りです。ポガチャル選手は同ステージにおいて、かつてマルコ・パンターニ氏が1998年に記録した登坂レコードを3分半以上も短縮する39分50秒前後で駆け抜けました。関係者の解析データによると、推定出力は約6.98W/kgという、人間の生理学的限界に迫る数値を記録しています。この日、追走したヴィンゲゴー選手自身も過去の記録を大幅に更新する驚異的な登坂を見せていたにもかかわらず、ポガチャル選手はそれを1分08秒も突き放しました。相手が弱かったのではなく、ポガチャル選手がロードレース界の限界値を一段階引き上げてしまったのです。
そして第三に、春先からの周到なピーキングとエネルギーマネジメントの進化です。炭水化物の摂取量を1時間あたり120g前後にまで高める最新の補給戦略を完全に体得し、長距離・猛暑のステージでも終盤までグリコーゲン枯渇を起こさない強靭な内臓疲労耐性を構築していました。自著や現地メディアのインタビューで語られた「過去の敗北からすべてを見直し、弱点だった長距離山岳の暑さ対策とペース配分を科学的に再設計した」という本人の言葉通り、隙のないコンディショニングが圧倒劇の土台となっていたのです。