日本武道館が単なるイベントホールではなく「音楽の聖地」と呼ばれる最大の要因は、日本のポピュラー音楽史そのものを刻んできた重厚な歴史にあります。もともとは1964年の東京オリンピックで柔道競技会場として建設された伝統ある武道の殿堂でしたが、その歴史を大きく塗り替えたのが1966年6月のザ・ビートルズ来日公演でした。
当時、「神聖な武道の聖地でロックバンドを演奏させるなど言語道断」という激しい反対運動が巻き起こるなか、厳重な警備のもとで敢行された全5回のステージは社会現象となりました。この歴史的事件を皮切りに、日本武道館は洋楽・邦楽を問わず「トップアーティストのみが立つことを許される特別な舞台」としての象徴性を獲得します。ディープ・パープルやチープ・トリックをはじめとする海外名盤ライブアルバム『Live at Budokan』が世界中で大ヒットしたことも、武道館の国際的な知名度を決定づけました。
邦楽シーンにおいても、矢沢永吉が積み上げた歴代最多公演記録(通算150回以上)や、松田聖子、THE ALFEEなどトップランナーたちが刻んだ金字塔は、後進のミュージシャンにとっての指針となってきました。インディーズから這い上がってきた若手バンドやアイドルにとって、「武道館ワンマン」は夢の終着点であり、同時に一流の証となる登竜門です。この半世紀にわたる物語の積み重ねこそが、ステージに立つ者とそれを見守るファン双方に、他会場では味わえない強烈な情緒と緊張感をもたらしています。