一般的に「シェフの帽子」「コック帽」として親しまれているあの白い帽子の正式名称は、フランス語でトック・ブランシュ(Toque blanche)と呼びます。「トック」はつばのない円筒形の帽子、「ブランシュ」は白を意味しており、直訳するとまさに「白い円筒帽」です。
このトック・ブランシュが現代の形として確立されるまでには、複数の歴史的エピソードが存在します。最も有力とされる起源の一つが、19世紀のフランスで「料理人の王であり、王の料理人」と称された伝説の名シェフ、アントナン・カレーム(Marie-Antoine Carême)による考案です。当時、厨房で働く料理人たちはさまざまな形状の帽子やナイトキャップを被っていましたが、カレームは「厨房の清潔さと品格を保つためには、全員が清潔な白い帽子を着用すべきだ」と提唱しました。さらにカレーム自身が自らの威厳を示すため、他の料理人よりもひときわ高い帽子を被ったことが、高さによる階級化の始まりとされています。
その後、20世紀初頭に「近代フランス料理の父」と呼ばれるオーギュスト・エスコフィエ(Auguste Escoffier)が、ロンドンのサヴォイ・ホテルやリッツ・ホテルで厨房の組織改革(ブリガード・ド・キュイジーヌ)を断行。厨房内の規律と衛生を徹底するため、制服としてコックコートとトック・ブランシュの着用を厳格にルール化し、世界中の西洋料理界へと定着させました。