『ニュースウオッチ9』の歴史は、そのままNHK報道局と政治権力、そして視聴者とのせめぎ合いの歴史と言っても過言ではありません。視聴者の記憶に最も鮮烈に残る交代劇の一つが、2010年から5年間にわたり番組を牽引した大越健介キャスターの降板理由です。政治部記者出身として独自の取材メモを手に、自身の言葉でニュースの背景を語るスタイルは高い支持を得ました。しかし、特定秘密保護法や安全保障関連法案をめぐる鋭い論考が時の政権幹部から警戒され、2015年春に突如交代が発表されます。局内関係者の証言によると、「官邸への忖度と局内政治部主流派の思惑が一致した結果の人事」と囁かれ、大越氏は後にNHKを退職してテレビ朝日『報道ステーション』のメインキャスターに就任するという異例の展開を辿りました。
同様の緊迫感をもたらしたのが、2017年から担当した有馬嘉男キャスターの交代劇でした。2026年秋、臨時国会開会日に生出演した菅義偉首相(当時)に対し、日本学術会議の任命拒否問題について「なぜ説明を尽くさないのか」と切り込んだ直後、官邸サイドから激しい反発を招いたと報じられました。その翌年2026年3月に有馬氏は番組を離れ、現在はヨーロッパ総局長などを経て国際報道の現場で腕を振るっています。有馬氏の降板についてNHK広報は「定例の人事異動」と説明したものの、現場記者たちの間には強烈な萎縮効果が走ったことは当時の特番インタビューや取材記録からも窺えます。
さらに近年、最大の激震となったのが青井実アナウンサーのNHK退職です。親しみやすいキャラクターで夜の顔として定着しつつあった青井アナですが、2026年1月に親族企業からの役員報酬受領に関する服務規程違反(兼業禁止規定への抵触)が発覚し、厳重注意処分を受けました。その直後、夕方の民放大型報道番組(フジテレビ系『Live News イット!』)へ電撃移籍することが表面化し、局内は大混乱に陥りました。長年NHKの看板を背負ってきたエースアナが、局内手続きの不備と処分を機にライバル局へ即座に転身した事象は、NHKアナウンサー組織の忠誠心とマネジメントの限界を露呈させた象徴的な事件でした。