乃木坂太郎という表現者の本質は、人間の深層心理に潜む「歪み」を美麗かつ冷徹に描き出す力にある。医療現場の権力闘争と倫理を問うた伝説的ヒット作から、昭和の猟奇事件をモチーフにしたサスペンス、さらには死刑囚と面会室で紡がれる異常な心理サスペンスまで、常に読者の倫理観を試す難問を突きつけてきた。
一貫しているのは、善悪の二元論をあざ笑うかのような重層的な人間観だ。登場人物たちは誰もが矛盾を抱え、追い詰められた極限状態でこそ剝き出しのエゴを晒す。今回の新作においても、張り巡らされた伏線と予測不能なドンデン返しが幾重にも仕掛けられている。紙のページをめくる速度をコントロールしてきた卓越した構成力が、いま世界基準の映像テンポへとトランスレートされようとしている。