人間の骨には極めて高い自己再生能力が備わっているにもかかわらず、なぜ「骨折治らない理由」が生じてしまうのか。臨床現場の取材によると、偽関節原因は大きく「力学的要因(メカニカル・ファクター)」と「生物学的要因(バイオロジカル・ファクター)」の2つに大別されます。
力学的要因として最も多いのは、骨折部の「固定不全」です。ギプスや固定金具の強度が不足していたり、患者が自己判断で早期に荷重・歩行を開始したりすると、骨折端に微小なズレ(過剰なストレス)が生じ続けます。骨が癒合するためには毛細血管が新生される必要がありますが、患部がグラつくたびに形成途中の微細血管が断裂し、骨形成がストップします。また、複雑骨折で骨のかけらが失われる「骨欠損」や、骨折部の隙間に筋肉・腱などの軟部組織が挟み込まれることも致命的な原因となります。
生物学的要因の筆頭は「血流障害(阻血)」です。骨の再生には血液が運ぶ酸素、栄養、骨髄由来の幹細胞が欠かせません。大腿骨頸部や手の舟状骨のように、もともと血流の乏しい部位はハイリスクとされます。さらに見逃せないのが患者自身の生活習慣と既往歴です。日本整形外科学会の臨床統計データでも、喫煙者は非喫煙者に比べて骨折の偽関節発生率が約2〜3倍に跳ね上がることが確認されています。タバコに含まれるニコチンが末梢血管を収縮させ、患部への血流を物理的に遮断するためです。糖尿病や重度の骨粗鬆症、過剰なNSAIDs(非ステロイド性消炎鎮痛薬)の長期連用も治癒阻害リスクを高めます。
また、「偽関節症状と痛み」には特有の傾向があります。激痛が24時間続くと思われがちですが、実際には安静時にはほとんど痛まないケースが珍しくありません。典型的な症状は以下の通りです。
患部に体重や負荷がかかった瞬間に走る「荷重時痛・運動時痛」、骨折部を指で強く押したときの「限局性圧痛」、骨の連続性が失われたことによる「局所の異常可動性」、そして患部をかばうことで生じる周囲筋肉の慢性的な張りや脱力感です。安静時の痛みが軽いため、「そのうち治るだろう」と通院を中断してしまう患者が多い点こそが、偽関節の落とし穴と言えます。