NHK連続テレビ小説の歴史において、ヒロインが放送途中で交代する事態は極めて異例です。通常であれば、オーディションを勝ち抜いた若手女優、あるいは実績ある主役級俳優が、半年間にわたって視聴者とともに朝の時間を駆け抜けます。ところが第52作『春よ、来い』は、NHK放送開始70周年および連続テレビ小説40周年記念という重責を背負い、通常(半年間)の倍となる1年間(全307回)の放送期間が組まれていました。
物語のモデルは、執筆当時にすでに『おしん』や『渡る世間は鬼ばかり』で不動の地位を築いていた脚本家・橋田壽賀子氏本人。戦中から戦後の混乱期をくぐり抜け、男性中心の過酷なテレビ業界で女性脚本家の道を切り拓いていく主人公・高倉春希の半生を、克明な人間描写とともに描く大型プロジェクトでした。
鳴り物入りでスタートした第1部(大阪・青年期編)を牽引したのは、透明感あふれる演技と凛とした佇まいで絶大な人気を誇っていた安田成美さんです。しかし1995年2月、NHKから「安田成美さんが肉体的・精神的な疲労により、第1部をもって降板する」という電撃的な公式発表がなされ、日本中に激震が走りました。第149回(1995年4月放送)からは、橋田作品の常連にして実力派の中田喜子さんが主人公を引き継ぐという、前代未聞のバトンタッチが敢行されたのです。