「ビストロでタルタルを注文したら、メニューの端に小さな文字で『馬肉使用』と書かれていた」——大手グルメポータルサイトや口コミアプリを調査すると、こうした消費者の声が後を絶ちません。現場取材を進めると、日本の洋食・ビストロ業界が直面している構造的な妥協点が見えてきます。
現在、国内の飲食店で提供されている「タルタルステーキ」の約7割近くは、牛肉ではなく「馬肉タルタル代用」によって成立しています。馬肉は牛や豚と異なり、奇蹄類特有の消化器官構造から大腸菌の保菌リスクが極めて低く、冷凍処理基準(-20℃で48時間以上等)による寄生虫(サルコシスティス・フェイエ)対策を施すことで、牛肉よりも格段に緩やかな基準で合法的な生食流通が認められているためです。
「馬肉のタルタルもあっさりとして美味だが、クラシックなフレンチを愛する者としては、牛肉本来の鉄分を含んだ濃厚なコクと脂の融点の低さが恋しくなる」と語るのは、都内の老舗ビストロに通い詰める40代の食通男性です。近年では、こうした本物志向のニーズに応えるべく、認可を取得した「生食用食肉取扱店」であることを前面に押し出す牛肉タルタル東京名店(銀座、六本木、麻布十番、渋谷など)が、予約困難店として再評価を受ける動きが強まっています。