ネット上の簡易的なキャラクター紹介では「両儀式は大のハーゲンダッツ好き」と一行で片付けられるケースが散見されます。しかし、これは物語構造の観点から見ると重大な見落としを含んでいます。
式自身は本来、食に対して極めて淡白であり、美食家としてのこだわりを持っているわけではありません。もし幹也が持ち込まなければ、彼女が自発的にコンビニへ赴いてハーゲンダッツを大量に買い漁るような行動様式は考えにくいのが公式の設定解釈です。つまり、ハーゲンダッツは式自身の単独の嗜好ではなく、「黒桐幹也が介在して初めて成立する嗜好」なのです。
原作者・奈須きのこ氏が1990年代末にこの設定を盛り込んだ背景には、当時の伝奇小説にありがちだった「浮世離れした主人公」に、誰もが知る具体的なハイブランドの一般消費財を持たせることで生じる強烈なリアリズムの狙いがありました。日常の象徴であるアイスクリームを、魔術や異能の世界に身を置く式に持たせることで、彼女が完全に怪物側へ堕ちてしまうことを防ぐ「物語の防波堤」として機能させているのです。
【プロの結論】関係性心理学から読み解く「アイスが繋ぐ魂のバウンダリー」
両儀式と黒桐幹也の関係性を心理学的な「パーソナルスペース」と「心理的バウンダリー(境界線)」の観点から分析すると、ハーゲンダッツという小道具の秀逸さが一層際立ちます。
式は自己の内側に「織」という多重人格と殺人衝動を抱え、他者との安易な接触を極度に拒絶していました。そんな彼女のテリトリーに土足で踏み込まず、しかし決して見捨てずに一定の距離を保ち続けた幹也の手法が「冷凍庫にアイスを補充しておく」という非言語的なコミュニケーションでした。
直接的な言葉で愛や友情を語り合えば崩れてしまう危うい関係の中で、溶けやすいアイスを媒介にすることで、式は幹也の好意を重荷に感じることなく受け取ることができました。冷たいアイスを噛み締めながら、幹也の体温を感じる——この絶妙な心理的距離の維持こそが、最終的に式を救済へと導く決定打となったのです。