カレイの煮付けにおいて「身がパサパサになる」「鍋の中で崩れてしまう」という現象は、加熱温度と時間、そして鍋内の対流コントロールが原因で引き起こされます。多くの家庭で良かれと思って行われている調理法が、実は魚の食感を損なう引き金になっています。
第1の要因は、弱火でダラダラと長時間煮込んでしまうことです。魚のタンパク質(ミオシンやコラーゲン)は約60℃〜65℃を超えると収縮を始め、長時間加熱によって細胞内の水分と旨味エキスを外へ絞り出してしまいます。コトコト煮込むほど味は染みると思われがちですが、実際は身の水分が抜け落ち、繊維が締まってパサつく結果を招きます。
第2の要因は、冷たい煮汁の状態から魚を入れて加熱することです。ぬるい温度帯(40℃〜50℃前後)を通過する時間が長くなると、魚の表面が瞬時に固まらず、煮汁の中で身がふやけて強度が低下します。そこへ沸騰時の大きな気泡が当たることで、身崩れが一気に進行します。
第3の要因は、魚の体表に残る酸化皮膜とトリメチルアミン(生臭さの原因物質)の残留です。カレイなどの白身魚は表面に特有のぬめりを持っています。これを適切に洗い流さないまま煮汁へ投入すると、臭みが煮汁全体に溶け出し、魚の身に再吸着してしまいます。