2010年5月、後藤忠政氏が出版した自叙伝『憚りながら』(宝島社)は、出版界に空前の衝撃を与えました。累計発行部数は30万部を突破し、各種ノンフィクションランキングで首位を獲得するなど、単なるヤクザ本を超えた社会現象となりました。
同書の中で後藤氏は、自らの生い立ちや組織結成の裏面史にとどまらず、政界の実力者とのパイプ、創価学会との過去の裏取引、大手ゼネコンや銀行との生々しい交渉記録を実名交じりで赤裸々に告白しました。読者からは「昭和から平成の日本社会が抱えていた闇の構造が克明に描かれている」「綺麗事だけでは成り立たない現実の縮図」といった高い評価が寄せられる一方で、「自己正当化や一方的な主張に過ぎない」との厳しい批判も巻き起こりました。
この手記が社会に与えた最大のインパクトは、日本企業が長年依存してきた「裏社会によるトラブル処理機能」の脆弱性とリスクを白日の下に晒した点にあります。企業コンプライアンスやESG経営が厳格化する現在において、『憚りながら』に記された実態は、反社会的勢力との関係遮断がいかに企業存続において不可欠であるかを示す歴史的な反面教師となっています。