ネット上で原口沙輔の名前を知ったライト層の間には、「人マニアでバズった新興の一発屋ボカロP」「メジャーで鳴かず飛ばずだったからボカロ界隈に逃げてきたのではないか」という穿った見方が散見されます。しかし、これらの見解は彼のキャリアと制作実態を著しく見誤った誤認にすぎません。
まず第一に、彼は「ボカロPに転向」したわけではありません。原口にとって合成音声ソフトウェアは、ピアノやシンセサイザー、サンプラーと同様に「自分の脳内にある音を具現化するための楽器の一つ」に過ぎないのです。自ら歌唱するソロ作も制作し、インストゥルメンタルやクラブトラックも並行してリリースしており、特定のプラットフォームや呼称に自己を限定していません。
第二に、メジャーシーンからの撤退どころか、裏舞台における楽曲提供実績と商業プロデュースのオファーはむしろ改名後に激増しています。CM音楽、テレビアニメの劇伴、著名アーティストへのトラック提供、さらには大型音楽フェスへのDJ出演など、アンダーグラウンドなネットカルチャーと最前線の商業プロジェクトを最高速度で行き来するハイブリッドな活動を続けています。「界隈」の壁をやすやすと飛び越えてしまう身軽さこそが、既存のジャンル観に囚われた観察者を混乱させる最大の要因となっています。