伊坂文学の真骨頂を味わうなら、まずはファンや批評家から絶大な支持を集める代表的タイトルから手を取るのが確実だ。ランキングの筆頭として揺るぎない存在感を放つのが、『アヒルと鴨のコインロッカー』である。吉川英治文学新人賞を受賞した本作は、コインロッカー、ボブ・ディラン、そして奇妙な強盗計画という一見バラバラな要素が、最後に見事な一本の線へと繋がる至高の傑作だ。
家族の絆と重厚なテーマ性を兼ね備えた『重力ピエロ』も外せない。辛い過去を背負いながらも前を向いて生きる兄弟の姿を描いたこの物語は、切なさと爽快感が同居する独自の読後感を提示してくれる。ミステリー小説の枠組みを超えた人間ドラマとしての完成度は、今なお色褪せることがない。
さらに、巨大な陰謀に巻き込まれた男の逃亡劇を描く『ゴールデンスランバー』は、圧倒的なスケール感と疾走感で読者を一気に引き込む。スリルに満ちた展開の中に、人の善意や友情の温かさを巧みに織り込む手腕こそ、彼が天才と呼ばれる所以である。