「命が助かっただけでもありがたいと思え」
被災地で囁かれるこの言葉が、被害者の口を塞ぐ最も強固な重石となっている。避難所という密室化されたコミュニティにおいて、支援物資の分配や生活ルールの決定権を握るのは、往々にして地元の男性有力者たちだ。こうした環境下で不快な言動や身体的接触を受けたとしても、被害者が声を上げることは極めて難しい。
ある支援団体に寄せられた相談事例では、夜間に布団の中に忍び込まれた女性が、周囲を起こさないよう耐え忍ぶしかなかったと明かしている。「声を上げれば避難所の雰囲気を壊す」「自分勝手だと思われて支援を受けられなくなるかもしれない」という心理的圧迫。被害者は二重の暴力に晒されているのだ。
さらに深刻なのは、被害の認知そのものが阻害されている点だ。下着の盗難や言葉によるセクシャルハラスメント、着替えの覗き見といった行為が「災害時だから仕方ない」「我慢すべきこと」として片付けられてしまう風潮が、今なお根強く残っている。