ここ数年、健康志向層の間で大きな支持を集めたのが16時間断食とオートファジーの理論です。細胞内の古くなったタンパク質を自ら回収・分解して再利用するオートファジーの仕組みを根拠に、「夕食を抜いて空腹時間を確保すれば勝手に若返り、脂肪も消え去る」という論調がSNSを中心に拡散されました。
しかし、細胞生物学の現場では重要な注釈が付けられています。オートファジーは確かに細胞の修復に寄与する生体防御機能ですが、それが「無制限な体脂肪燃焼」を保証するわけではありません。活動量の多い成人や筋肉量の少ない人がタンパク質補給を断って16時間以上の絶食を常態化させると、オートファジーの恩恵を筋タンパク質の過剰分解というマイナス影響が容易に上回ってしまいます。
また、エネルギー不足が深刻化すると、甲状腺ホルモン(サイロキシンからトリヨードサイロニンへの変換)の活性が鈍り、体温が低下して日常的な冷えや慢性疲労を訴えるケースが頻発します。「オートファジーを活性化させているつもりが、実際には代謝活動を冬眠状態に追い込んでいた」という事態は、理論の一面だけを都合よく解釈した典型的な盲点と言えます。