映画『レベッカ』の最大のカタルシスは、完璧な淑女として崇められていた前妻レベッカの「神話」が音を立てて崩れ去る瞬間にあります。物語の終盤、海中に沈められていたレベッカのヨット「ジュ・ルヴィアン号」が引き揚げられ、船底に人為的な穴が開けられた状態で彼女の遺体が発見されたことで、平穏に見えたマキシムと新妻の生活は一変します。
窮地に立たされたマキシムは、ついに新妻に対して重い口を開き、前妻レベッカの死の真相を告白します。社交界で絶賛されていたレベッカの本性は、極めて自己中心的で冷酷、幾多の男たちと奔放な関係を結び、マキシムを心理的に虐げ続ける悪魔のような女性でした。ある夜、海辺のボート小屋でレベッカは「他の男の子どもを妊娠した。その子をあなたの跡継ぎとして育てさせる」と冷笑しながらマキシムを嘲笑。激昂したマキシムの手によって彼女は命を落とし、遺体はボートごと海へ沈められたのでした。
しかし、検死審問が進む中でさらなる衝撃的な事実が露呈します。レベッカの従兄であり愛人でもあったファヴェルの告発により、マキシムは殺人容疑で絞首刑の危機に直面しますが、レベッカが死の直前に極秘裏に通っていたロンドンの医師ベーカーの診療録から真実が判明します。レベッカは妊娠などしておらず、余命幾許もない末期の子宮ガンに侵されていたのです。
病による醜悪な衰えと苦痛に満ちた死を何よりも恐れたレベッカは、マキシムの誇りと激昂しやすい性格を巧みに利用し、自らを殺害させるよう仕向けていました。彼女は死の瞬間に至るまで夫を操り、死後もなおマキシムを破滅の淵へ追い込む巧妙な罠を仕掛けていたのです。真相が明らかとなりマキシムの容疑は晴れますが、レベッカを神聖視していたダンヴァース夫人は絶望のあまり狂乱。愛する主人の記憶とともにマンダレイ屋敷に火を放ち、炎の中で非業の死を遂げます。