中野英雄の名を日本中に轟かせた決定的な契機は、1992年に放送されたフジテレビ系ドラマ『愛という名のもとに』(脚本:野島伸司)でした。大学のボート部仲間7人の青春と苦悩を描いた本作で、中野が演じたのは証券会社で過酷なノルマとパワハラに追い詰められていく青年「チョロ」こと倉田篤役です。
真面目で心優しいチョロが、理不尽な社会の荒波に呑まれて自ら命を絶ってしまうクライマックスは、最高視聴率32.6%を記録し、当時の日本社会に深刻な問題提起をもたらしました。「チョロ」の愛称はそのまま中野英雄の代名詞となり、街を歩けば役名で声をかけられるほどの社会現象を巻き起こしました。
しかし、あまりに強烈な当たり役は、俳優にとって時に重い足枷となります。その後、長く続いた「気弱なチョロ」のパブリックイメージを粉々に打ち破ったのが、2010年公開の北野武監督映画『アウトレイジ』、および2012年の続編『アウトレイジ ビヨンド』における「木村」役でした。
顔を切り刻まれ、復讐に燃えながらも義理と策略の狭間で生き抜く武闘派ヤクザ・木村の鬼気迫る佇まいは、映画賞を総なめにするなど高い評価を獲得。凄惨な暴力描写のなかで見せた凄みと哀愁は、中野英雄が単なるトレンディ俳優にとどまらない、本物の演技派俳優であることを知らしめる歴史的一作となりました。