1927年、栃木県に生まれた島桂次氏は、東北大学文学部を卒業後の1949年にNHKへ入社しました。地方局勤務を経て東京の報道局政治部へ配属されると、持ち前の鋭い嗅覚と徹底した現場主義で頭角を現します。太い眉毛と風貌、そして強引な取材姿勢から、いつしか政界や社内関係者から「シマゲジ」という愛称兼畏称で呼ばれるようになりました。
島氏の記者人生を決定づけたのが、戦後日本政治の巨頭である田中角栄元首相との深い結びつきです。自民党最大派閥である田中派(木曜クラブ)の番記者として田中氏の懐に深く入り込み、他社を圧倒する特ダネを連発。単なる取材記者にとどまらず、政治工作や政策形成の舞台裏にまで関与するほどの腹心として重用されました。当時の政界関係者の証言によると、「島の一言で政治特番の枠が動き、自民党幹部すらシマゲジの動向に神経を尖らせていた」と語られるほどの影響力を持っていました。
報道局長、専務理事、副会長を歴任した島氏は、1989年6月に第16代NHK会長に就任します。官僚的で事なかれ主義が蔓延していた公共放送組織において、トップダウンの剛腕を振るい、「NHKの天皇」「シマゲジ独裁」と呼ばれる前代未聞の権力基盤を確立していきました。