ネットの掲示板やSNSでは「近所のバイク屋にパンク修理を頼んだら門前払いされた」「他店で買った原付を持っていったら露骨に嫌な顔をされた」という苦訴が散見されます。かつて昭和から平成にかけて存在した「街の自転車・バイク屋さん」の牧歌的なイメージを持つユーザーからすると、冷淡な対応に映るかもしれません。しかし、業界団体である全国オートバイ協同組合連合会(AJ)の関連資料や現役整備士へのヒアリングを重ねると、そこには店舗側の「怠慢」ではなく法的・経済的リスクの防衛策というシビアな現実が浮き彫りになります。
店舗が持ち込み修理を断る主たる理由は、大きく3点に集約されます。
第1に、PL法(製造物責任法)と作業保証のリスクです。特にフリマアプリやネット通販で購入された格安の社外パーツや、中古車個人売買で入手した車両は、目に見えない歪みや粗悪な金属素材が使われているリスクを孕んでいます。万が一、取り付け後にパーツ破損で転倒事故が起きた場合、司法判断において「最終的に作業を行った整備工場の過失」を問われる判例が増加しており、整備士は自己防衛のために出自不明な部品の持ち込みを拒絶せざるを得ません。
第2に、車両の電子制御化と設備投資の壁です。2020年以降に段階的導入された排出ガス自己診断装置(OBD2)の搭載義務化に伴い、現代のバイクは専用のスキャンツール(故障診断機)なしにエラー消去や正確な状態把握が困難になりました。数千万円規模の設備投資ができる大型ディーラーと異なり、町工場では特定メーカーの専用テスターを保持していない場合、物理的に「触りたくても触れない」事態が発生しています。
第3に、整備士不足によるキャパシティの限界です。二輪自動車整備士の高齢化と人手不足が深刻化する2026年現在、自店舗で新車・中古車を購入してくれた既存顧客(定期点検や車検を利用する優良顧客)の整備予約だけでピットが数週間先まで埋まっている店舗が大半です。利幅が薄くリスクの高い「一見客の飛び込み」を受け入れる余裕そのものが現場に残されていません。