本を開いたときに目に入る茶褐色のポツポツとした斑点。これは古書業界や紙の保存科学において「フォクシング」と呼ばれる現象だ。長年、発生原因には諸説あったが、近年の研究で紙に含まれる微量の鉄分や銅分が、湿度や酸素と反応して酸化鉄へ変化する化学反応、そして空気中に漂う微小なカビの繁殖が複合的に絡み合って生じることが判明している。
特に注意が必要なのが、明治期から昭和中期にかけて日本の製本業で広く使われた酸性紙だ。機械すきで作られたこれらの紙は、製造工程で添加された硫酸アルミニウムの影響で酸化が進みやすく、年月の経過とともに茶色の斑点が発生しやすい宿命を背負っている。つまり、本が傷むのは保管場所の湿気だけでなく、紙自身の素材特性にも起因しているのだ。