神保町の酒場を語る上で、この街が育んできた文化的背景を外すことはできない。大正から昭和にかけて、池波正太郎をはじめとする多くの文豪や知識人がこの地を歩き、本を買い求め、そして夜になれば酒を酌み交わした。
その精神は、現在の神田古書店街に今も息づいている。古書店の書棚を何時間も巡った後に辿り着く大衆酒場には、他所にはない独特の静寂と活気が同居する。木の温もりが残るカウンター、年季の入った品書き、そして手際よく料理を仕上げる職人の立ち振る舞い。ここでは酒を飲むこと自体が、カルチャーの延長線上にある洗練された日常の儀式なのだ。