現場に残されていた赤インクで書かれた遺書は、カートが幼少期から心の中に抱いていた架空の友人「ボダ(Boddah)」に向けた手紙でした。そこには、世界中から崇拝されるスーパースターとしての重圧と、表現者としての誠実さゆえの絶望が生々しく綴られていました。
遺書の中心で語られていたのは、何万人もの熱狂的な聴衆を前にしても、かつて感じていたような純粋な情熱や喜びを感じられなくなってしまったことへの深い罪悪感です。「ステージを降りて明かりが消えたとき、僕は何の興奮も感じられない」「聴衆を騙して熱狂のふりをするのは最悪の犯罪だ」という一節は、偽善を嫌い、ロックの本質を追い求めたカートの内面を象徴しています。
遺書の終盤には、ニール・ヤングの名曲『ヘイ・ヘイ、マイ・マイ』から引用されたあまりにも有名なフレーズが刻まれていました。
「だんだん消え去るくらいなら、いっそ燃え尽きてしまったほうがいい(It's better to burn out than to fade away.)」
最後は妻コートニーへの愛、そして娘フランシスに対する「僕のように惨めで自己破壊的な人間になってほしくない」という父親としての祈りで結ばれています。名声に押しつぶされ、自らの魂に嘘をつけなかった表現者の限界がそこにありました。