婦人科の診察台で医師がクスコ(腟鏡)を挿入して子宮頸部を直視した際、子宮の入り口が赤くただれているように見える状態を総称して「子宮腟部びらん」と呼びます。しかし、この所見の大半は組織が病的に破壊された潰瘍(真性びらん)ではありません。医学的には子宮腟部外反(仮性びらん)と呼ばれる、成熟期女性における極めて自然な生理現象です。
子宮頸部は、腟側に向いている「扁平上皮」と、子宮頸管の内側を覆う「円柱上皮」という異なる2種類の細胞シートで構成されています。扁平上皮は皮膚のように重層構造を持ち、摩擦に強く白っぽいピンク色をしています。一方、頸管の内側にある円柱上皮は分泌液を作り出す単層の細胞で構成されており、表面が非常に薄く、その直下を走る毛細血管の赤色がそのまま透けて見えます。
思春期から成熟期にかけて女性ホルモンであるエストロゲンの分泌が活発化すると、子宮頸管の内側にあった円柱上皮が外側(腟内)へと押し出されるようにめくれ出てきます。これが子宮腟部びらんの原因と真相です。つまり、組織がただれているのではなく、「内側にあるはずの赤くて柔らかい粘膜が、外側にロールアウトしている状態」に過ぎません。20代から40代の性成熟期女性の実に80%以上に認められる、健康なホルモン環境の証左でもあります。
また、子宮腟部びらんおりものの変化に悩む女性が多いのも、この解剖学的特徴が直接関わっています。円柱上皮はもともと頸管粘液を活発に分泌する性質を持っているため、腟内に露出する面積が広がるほど、透明から乳白色の粘調度の高いおりものが物理的に増加します。感染症にかかっていなくとも、おりものの量が以前より増えたり、下着が湿りやすくなったりするのは、露出した円柱上皮が正常に分泌活動を続けているためです。