ネット上の掲示板やSNSでは、時折「漢字の書き順は行書なら崩しても自由であり、正しい書き順など存在しない」という極論が散見されます。しかし、これは書道史における重大な誤解を含んでいます。
確かに行書や草書においては、速筆のために一部の画が連続したり、古典の流派によって筆順のバリエーションが存在するケースがあります(例えば「飛」や「右」など)。しかし、教育現場で用いられる「楷書」における「空」の書き順に関しては、『筆順指導の手びき』以降、現代に至るまで一貫して穴冠の1画目から順次展開する基準が維持されています。
「自分流の書き順」で長年押し通してきた人が直面する現実的なデメリットは、冠と「工」の接合部が窮屈になり、マス目の中で文字が右下に傾斜していく点です。ネット上の「書き順なんてどうでもいい」という言説を鵜呑みにして運筆の基本を放置することは、自ら手書き文字の説得力と可読性を手放しているに等しいといえます。