石川達三の名著『生きたメキシコ』が、刊行から80年以上の歳月を経て再び脚光を浴びている理由は明確です。それは、本作が描いた「甘言に乗せられて異国へ渡った労働者の孤立」という構図が、外国人技能実習制度や非正規雇用の固定化、移民政策の是非に揺れる現代社会の課題と恐ろしいほど酷似しているからです。
戦前の日本政府は、国内の過剰人口対策と外貨獲得を掲げ、南米や中米への移民を「雄飛」として大々的に推進しました。しかし、石川達三が1937年に現地メキシコへ渡航して目の当たりにしたのは、甘いプロパガンダとはかけ離れた、荒野に取り残された同胞の悲惨な生活苦でした。美化された言説を剥ぎ取り、事実のみを冷徹に記録したそのジャーナリズム精神は、情報の真偽が問われる現代の情報空間において、まさに求められている「一次情報の重み」そのものです。