板わさの発祥と歴史を紐解くと、江戸時代後期の食文化に行き当たります。当時、江戸の町で大流行していた蕎麦屋は、単に食事を素早く済ませる場所ではなく、酒を楽しむ社交場としての機能も兼ね備えていました。そこで定着したのが、蕎麦が茹で上がるまでの間に酒と肴を楽しむ「蕎麦前(そばまえ)」という粋な習慣です。
蕎麦屋の厨房は蕎麦を茹でる釜や出汁を取る設備が中心であり、居酒屋のように複雑な調理設備を持つことが難しい構造でした。そこで重宝されたのが、火を使わずに包丁一本ですぐに提供でき、客を待たせない「かまぼこ」です。手早く出せて酒が進み、蕎麦の風味を邪魔しない上品な味わいを持つことから、板わさは「焼き海苔」や「そば味噌」と並ぶ蕎麦前の三種の神器として定着していきました。
名称の由来は極めて明快で、「板かまぼこ」と「わさび」の頭文字を組み合わせた略称です。杉やモミの木板に乗せて蒸し上げられたかまぼこは、木のほのかな香りをまとい、ツンと香る生わさびの清涼感と合わさることで、蒸し暑い日本の夏でもさっぱりと味わえる極上の酒肴として愛され続けています。