インターネット上のライダースコミュニティでは、バッテリーに関して工学的に誤った俗説が散見されます。その代表例が「バッテリーが上がったから、アイドリング状態で1時間放置して充電した」という対処法です。
結論から申し上げますと、現代のオートバイにおいてアイドリング放置による充電効果はほぼ期待できません。それどころか、深刻なオーバーヒートやバッテリーのさらなる劣化を招く危険な行為です。
二輪車の発電システム(ACG/オルタネーター)は非常に小型で、エンジン回転数が3,000〜5,000rpm程度に達した状態で初めて規定の最大発電能力を発揮するように設計されています。アイドリング回転数(1,200〜1,500rpm前後)では、常時点灯が義務付けられているヘッドライト、フューエルポンプ、ECU、テールランプといった必須電装品を動かす電力だけで発電量を消費し尽くしてしまい、バッテリー側へ流れ込む余剰電流はごくわずか、車種によってはマイナス収支(持ち出し放電)になることすらあります。
走行風の当たらない停車状態で長時間アイドリングを続けると、水冷車であってもラジエーターファンが回り続けて余計に電力を消費し、空冷車であればシリンダーヘッドが高熱に晒されてエンジンオイルが熱劣化します。バッテリーを走行で充電するためには、「エンジンを適正回転数まで回しながら、最低でも40分から1時間程度の連続走行」を行う必要があります。
もう一つの深刻な盲点が、冬場のバイク放置と自然放電の防ぎ方に対する認識不足です。バッテリー内部の化学反応は外気温に極めて敏感で、気温が氷点下に近づくとバッテリー容量は常温(25℃)時に比べて約70〜80%まで低下します。さらに、乗っていなくても車両に搭載されたデジタル時計やイモビライザー(盗難防止装置)、ECUのメモリ保持のために、微弱な「暗電流」が24時間休まずバッテリーを消費し続けています。
「たまにしか乗らないから」と冬場に1ヶ月間バイクを完全に放置すれば、新品のバッテリーであってもセルを回せなくなるのは必然です。冬眠期間中の防衛策としては、マイナス側のターミナル端子を工具で外して暗電流を完全に遮断するか、家庭用コンセントから常時接続しておける「トリクル充電器(微弱な電流を自動制御で流し続け、満充電を維持する装置)」を繋ぎっぱなしにしておくことが、唯一にして最強の解決策となります。