ネット上のマナー解説記事やSNS情報の中には、言語学的な根拠を欠いた誤った言説や、過剰敬語を推奨するミスリーディングが少なからず存在します。その代表例が「ご教示くださいは相手に失礼だから絶対に使ってはいけない」という極端な主張です。結論から言えば、社内文書や一般的な社外メールにおいて「ご教示ください」を用いること自体は誤りではありません。「ご〜ください」は相手に特定の行為を促す尊敬の型(「ご覧ください」「お越しください」と同様)であり、文法的には完全に成立しています。
ただし、相手が自社の役員や重要取引先の重役である場合、前述の通り「ください」が命令形である点に敏感な受け手が存在することも事実です。そのため、文法的な正誤を超えた現場のリスクヘッジとして、「ご教示いただけますでしょうか」や「ご教示賜れますと幸甚に存じます」といった依頼形・仮定形へシフトすることが推奨されるわけです。
もうひとつの深刻な誤用が、相手に対して「ご教示してください」と言ってしまうパターンです。日本語の「ご(お)〜する」は「お電話する」「ご案内する」のように自分側の動作をへりくだる謙譲語の型です。したがって、相手の動作である「教える」に対して「ご教示+してください」と接続すると、相手の行動を謙譲表現で縛るという文法的な破綻(ねじれ)が生じ、非常に失礼な言い回しになります。「ご教示願います」「ご教示いただけますか」という形を崩さないよう細心の注意を払わなければなりません。