インターネット上や酒席の雑談で「酒は万薬の長には続きがある」と噂されることが多々あります。一般的に知られているのは「酒は百(万)薬の長、されど万病の元」という対句です。
この表現の原点として名高いのが、鎌倉時代末期に吉田兼好が著した随筆『徒然草』の第175段です。兼好法師は作中で次のように鋭く指摘しています。
「百薬の長とはいへど、万の病は酒よりこそ起れ」
兼好法師は、酒が人を陽気にさせ、一時的な人間関係を円滑にする効能を一部認めつつも、度を越した飲酒が理性を失わせ、人間関係を破壊し、数々の内臓疾患を引き起こす元凶であると喝破しました。また、江戸時代の狂歌や民間伝承でも「酒は百薬の長 されど万病の元」「酒は憂いの玉箒(たまぼうき) されど命を削る鉋(かんな)」など、酒の功罪を対比させる教訓が数多く残されています。
「万薬の長」という都合の良い前半部分だけを切り取って記憶し、都合の悪い後半の警告を忘れてしまう心理は、古今東西を問わず酒を愛する人間の共通項だったと言えるでしょう。