かつて主観的な幻想と片付けられていた明晰夢が、客観的な科学データとして承認された契機は、1980年代にスタンフォード大学の生理心理学者スティーヴン・ラバージ博士の研究によってもたらされました。ラバージ博士は、明晰夢を見ている被験者に対し、「夢の中で意識を自覚した瞬間に、あらかじめ決めた合図として眼球を左右に特定のパターンで動かす」という実験を課しました。
レム睡眠中は全身の筋肉が脱力(アトニア)状態にありますが、外眼筋(眼球を動かす筋肉)と呼吸筋だけは例外的に運動指令が通ります。脳波計と眼球運動記録(EOG)を同期測定した結果、レム睡眠と脳波の仕組みにおいて、身体は紛れもなく深く眠っていながら、意識だけが極めて明晰に覚醒している事実が世界で初めて実証されました。
近年の明晰夢の科学的根拠と最新研究では、さらに詳細な脳機能マッピングが進んでいます。明晰夢の発生時、通常のレム睡眠では抑制されている前頭前野(自己認識や批判的思考を掌る領域)が局所的に再活性化し、約40Hzのガンマ波帯域の同期が観測されます。すなわち明晰夢とは、「眠りながらにして前頭葉のメタ認知機能が部分覚醒したハイブリッドな意識状態」に他なりません。