画面越しに漂う静謐で美しいロマンスとは裏腹に、制作の現場は極限の過酷さに包まれていました。新進気鋭の若手女優として抜擢された常盤貴子と豊川悦司の共演秘話において、今も語り草となっているのが撮影スケジュールの壮絶さです。
ドラマ史に残る北川悦吏子脚本の名作ドラマとして知られる本作ですが、セリフを覚えるだけでなく、膨大な量の手話を一から身体に叩き込まなければなりませんでした。取材資料や当時の特番インタビューによると、豊川悦司は撮影に入る数週間前から専門指導員のもとで猛特訓を開始。トヨエツの手話練習エピソードとして有名なのが、台本の手話表現を頭に叩き込むため、睡眠時間を2〜3時間に削りながら、指が痙攣するほど自宅の鏡の前で反復練習を繰り返したという事実です。
当時まだ23歳前後で連続ドラマの主演級に挑んでいた常盤貴子に対し、座長である豊川悦司は現場で兄のように、時に戦友のように寄り添いました。常盤貴子は後年の対談で「豊川さんの包容力とストイックな姿勢がなければ、あの過酷な現場を乗り越えることはできなかった」と述懐しています。晃次が紘子を包み込むような劇中の関係性は、過酷な撮影現場で培われた二人の絶対的な信頼関係から自然とにじみ出たものでした。