宇都宮直子の著作群の中でも、特に金字塔として語り継がれているのが、羽生結弦と浅田真央に肉薄した作品群です。2018年に上梓された『連覇の原動力』では、平昌五輪で66年ぶりの男子シングル連覇を達成した羽生結弦の過酷なリハビリ期間と、王者の矜持を克明に記録しました。
記者会見の定型句だけでは捉えきれない、羽生が見せたふとした沈黙や眼差しの揺らぎ。自著や手記の引用を交えながら編まれた文章は、絶対王者が背負っていた重圧と孤独を白日の下に晒しました。また、彼女の代表的本である『スケートは生きている』では、浅田真央が直面した母の喪失、ジャンプ矯正の苦しみ、そしてリンクに戻り続けた理由を、温かくも冷静な筆致で描写しています。
「取材者と被取材者」という冷徹な距離を保ちながらも、対象の痛みを自らのことのように受け止める姿勢が、他の追随を許さないノンフィクションとしての深みを生み出しています。