映画史にその名を轟かせるソビエト映画の巨匠セルゲイ・エイゼンシュテイン。彼はモンタージュ理論の先駆者として知られるが、メキシコ渡航は彼の芸術的キャリアにおける劇的な転換点となった。『戦艦ポチョムキン』で見せた峻烈な編集テンポとは一転、メキシコの豊かな日光と彫刻的な人々の顔立ちを広角レンズで捉え、幾何学的な画面構成を追求した。
彼は現地の土着文化とスペイン植民地時代のカトリシズムが複雑に交錯する様を、ドキュメンタリー映画の枠組みを超えた美学へと昇華させた。粘土細工のようなピラミッド、太陽を仰ぐアガベの群生、そして死者の日における髑髏の仮面。エイゼンシュテインが見つめたメキシコは、単なる地理的な場所ではなく、生のエネルギーと死のイメージが等価に交わる精神的な小宇宙であった。