文豪たちの作品や日記にも、この店に関する記述が度々登場する。薄幸の天才女流作家・樋口一葉は作品の構想を練りながらこの店の蕎麦を味わったと伝えられ、近代文学の巨匠・森鴎外や劇作家の坪内逍遥もまた、文士の集いとして暖簾を潜った常連のひとりだった。時代を超えて知的探求者たちを魅了し続ける秘密は、変わらぬ自家製粉のこだわりと、飾らない江戸っ子の気風にある。
彼らが愛した味わいは、単なるノスタルジーではない。文豪たちが筆を休めて楽しんだ名物「せいいろ」や「古式せいいろ」は、現代の私たちの味覚をも揺さぶる至高の一品だ。