スライスした断面からにじみ出る赤い液体を「動物の血」と誤解するケースは後を絶ちません。しかし、食肉処理の工程において家畜は完全に脱血(放血)処理が行われており、筋肉組織内に液体の血液が残ることは構造上ほぼありません。この赤い液体の正体は「ミオグロビン」と呼ばれる筋組織中のタンパク質と水分が混ざり合った肉汁です。
牛肉の赤身部分には、運動に必要な酸素を細胞へ届けるミオグロビンが豊富に含まれています。加熱によって筋線維が収縮すると、細胞内に保持されていた水分が外へ押し出されます。その際、赤色色素を持つミオグロビンが水分と一緒に溶け出すため、まるで血液のように赤いドリップとなって現れるのです。
血液(ヘモグロビン)と肉汁(ミオグロビン)には明確な差異が存在します。血液は空気に触れると急速に凝固し、特有の強い鉄臭さを放ちますが、ミオグロビン主体の肉汁はサラサラとしており、加熱してもレバーのような血生臭さは生じません。このメカニズムを理解していれば、鮮やかな赤汁を見ても過度な不安を抱く必要がなくなります。