2024年のハン・ガン氏によるノーベル文学賞受賞は、長年韓国社会を苛んできた「ノーベル賞コンプレックス」を劇的に緩和する歴史的契機となりました。2000年の金大中元大統領による平和賞受賞以来、実に24年ぶりとなった栄誉に、ソウルの光化門広場や大型書店「教保文庫」には歓喜の群衆が押し寄せ、著作の重版が相次ぎました。
日本の文壇や読書界もこの快挙を惜しみなく祝福し、アジア発の現代文学が世界基準で高く評価された事実を温かく受け止めました。この出来事によって、韓国国内の「日本だけが受賞し、韓国は無視されている」という被害者意識に近い鬱屈は大幅に解消されたと言えます。
しかし、文学賞の熱狂が一巡したあとも、韓国の科学技術界が抱える冷厳な現実は何ひとつ変わっていません。科学コミュニティからは「文学の偉業は個人の卓越した才能と表現力によるものだが、自然科学賞は国全体の数十年にわたる研究基盤と学術エコシステムの産物である」という極めて冷静な警鐘が鳴らされました。個人の感性が切り拓いた文学の勝利と、国家的な基礎研究システムの成熟度を混同してはならないという共通認識が、知識層の間に改めて刻み込まれたのです。