メンデルスゾーンの『春の歌』は、正式には無言歌集作品62の第6曲(Op.62-6、無言歌集第5巻第6曲)にあたります。日本のピアノ教育界で広く参照されている全音ピアノピース難易度では、最上位クラスに近い「F(上級)」に分類されており、ブルグミュラーを終えたばかりの学習者が気軽に手を出すと、予想以上の難渋さに挫折しかねない骨太な楽曲です。
なぜ単一の美しい旋律を持つこの曲が上級に位置づけられているのか。その理由は、音符の数そのものではなく、右手の中に「主旋律」と「ハープを模した分散和音(アルペジオ伴奏)」という2つの全く異なる役割が同居している点にあります。ポリフォニー(多声部音楽)のように各声部の音量をミリグラム単位で制御しなければ、曲の骨格がたちまち崩れてしまう構造的な難しさがあるのです。
現在市販されているメンデルスゾーンピアノ楽譜にはさまざまなエディションが存在しますが、学習段階や目的に応じた選択が演奏の成否を大きく左右します。