2012年4月1日に第20番目の政令指定都市となった熊本市。九州新幹線全線開業(2011年)を追い風に、富合町や植木町との周辺合併を完了させて法定人口70万人を突破し、悲願の指定を勝ち取りました。当時、熊本市の首長会見や地元経済界は「100年に一度の飛躍」と沸き立ちました。
しかし、熊本市を最後に新たな政令指定都市は14年間にわたり1都市も誕生していません。なぜここまで新指定が完全に停止したのか。関係各所への取材から、3つの決定的な理由が浮かび上がってきます。
第1の理由は、「平成の大合併」による人口かさ上げボーナスの消滅です。静岡市や新潟市、岡山市などは、複数の市町村が広域合流することで一気に70万人の大台をクリアしました。しかし現在、周辺自治体を巻き込んで人口を数十万人単位で増やせるような大合併の機運は全国どこにも残っていません。単独で人口70万〜80万人を超える未指定市は、日本国内に存在しないのが冷徹な事実です。
第2の理由は、総務省による審査方針の事実上の引き締めです。合併特例法が失効した現在、総務省は「単に合併で人口を集めただけの都市」が財政難に陥るリスクを極度に警戒しています。人口の絶対数だけでなく、「産業集積の厚み」「都市としての求心力・独立性」「将来にわたる財政持続性」が厳しく問われるため、形式的に50万人を超えている中核市であっても、政令市へのステップアップを国が容易に認めない空気が固まっています。
第3の理由は、最も生々しい「都道府県と政令指定都市の二重行政摩擦」です。政令市が誕生すると、道府県は管轄下の巨大な税源(道府県民税や地方消費税の一部)と広範な行政権限を失います。愛知県と名古屋市、大阪府と大阪市、静岡県と浜松市・静岡市など、長年繰り広げられてきた「県市対立」の泥沼を目の当たりにしてきた各道府県にとって、配下の有力中核市が政令市へ独立することは絶対に避けたい権力闘争そのものです。道府県側の強烈なブレーキが、指定移行を阻む見えない壁となっています。