本州から訪れた観光客やビジネスパーソンが札幌の地下鉄に乗り込んだ瞬間、多くの人が「走行音が新交通システムに似ている」「揺れが少なく、加速が鋭い」という独特の感覚を抱きます。それもそのはず、札幌市営地下鉄は日本で唯一、全3路線(南北線・東西線・東豊線)がゴムタイヤで走行する地下鉄だからです。
世界の地下鉄を見渡しても、パリやモントリオールなど極めて限定的な都市でしか見られないこのシステムを、なぜ札幌市は全面採用したのでしょうか。背景には、1972年の冬季オリンピック招致と、積雪寒冷都市特有の極限環境がありました。
当時の札幌市交通局長であった大塚金之助氏を中心とする開発陣は、従来の鉄車輪・鉄レール方式が抱える「雪と氷による車輪の空転・滑走」「騒音と振動」「急勾配への弱さ」に危機感を抱いていました。ゴムタイヤは鉄車輪の約3倍に達する強力な摩擦係数(グリップ力)を持ち、40‰(パーミル)を超える急勾配でも滑ることなくスピーディに登坂・減速が可能です。これにより、平岸から真駒内へと続く高台のアップダウンを難なく克服できる車両設計が実現しました。
さらに独自性を決定づけたのが、中央に敷設された1本のレールをタイヤで挟み込んで案内する「中央案内軌条方式」、通称札幌方式の開発です。パリ地下鉄は鉄レールを併設した複雑な構造ですが、札幌は専用の案内軌条を車両中央に配置し、走行路面には平滑なエポキシ樹脂塗装や特殊鋼板を採用。これにより劇的な騒音低減とスムーズな自動運転適性を実現しました。
なお、南北線と東西線・東豊線では技術世代が異なり、以下の明確な相違点が存在します:
- 南北線(第一世代):車両中央から上部に突き出た「T字型」案内軌条を採用。集電方式は第三軌条方式(DC 750V)。
- 東西線・東豊線(第二世代):高さを抑えた「I字型(一本レール)」案内軌条を採用。集電方式は架空電車線方式(架空線からパンタグラフで集電、DC 1,500V)へ改良され、トンネル断面の小型化と他設備との汎用性を向上。