急性大動脈解離の初期症状における決定的な特徴は、「発症したその瞬間が痛みの最大値(ピーク)である」という点に尽きます。徐々に痛みが強くなる胃潰瘍や胆石発作とは明確に異なり、何時何分何秒に痛みが始まったかを患者自身が明確に指定できるほど、突発的かつ強烈です。
実際に九死に一生を得た生還者の手記や退院後のインタビュー記録には、凄惨な現場の記憶が生々しく刻まれています。
「テレビを見てくつろいでいた瞬間、誰かに巨大なナイフで背中を上から下へ一気に切り裂かれたかのような衝撃が走った。呼吸をすることすら恐ろしく、声も出せずにその場に崩れ落ちた」(50代男性・生還者の手記より)
また、救急現場の救急救命士が重要視する臨床的特徴として「大動脈解離における痛みの移動」が挙げられます。最初に前胸部を襲った激痛が、数分から数十分の間に背中の肩甲骨の間へ移り、さらに腰や下腹部、太ももの付け根へと下方に移動していく現象です。これは、大動脈の内膜に生じた裂け目から血液が猛烈な勢いで中膜を剥離しながら、心臓に近い上行大動脈から腹部大動脈、総腸骨動脈へと解離がリアルタイムで進行している解剖学的な証拠にほかなりません。「痛い場所が時間とともに移り変わる」という訴えは、急性大動脈解離を強く疑うべき決定打となります。