「月日は百代の過客にして」というフレーズは、芭蕉の完全な独創ではなく、中国・唐代の大詩人である李白の散文『春夜宴桃李園序(しゅんやとうりえんにえんするのじょ)』に強い着想を得ています。
李白の文章には次の一節があります。
「夫れ天地は万物の逆旅にして、光陰は百代の過客なり」
(そもそも天地は万物を泊める宿屋であり、月日は永遠に通り過ぎていく旅人である)
芭蕉はこの李白の宇宙観(擬古の手法)を見事に取り入れながら、さらに「行きかふ年もまた旅人なり」と続けました。李白が「空間(天地)と時間(光陰)」を対比させたのに対し、芭蕉は「時間(月日)と年月の巡り(行き交ふ年)」を重ね、より動的で情緒あふれる日本の美意識へと見事に昇華させたのです。